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TW4・錵刄・氷霧(d02308)のキャラブログです。SS、仮プレ置き場がメイン。分からない方はバック推奨です。結構アンオフィあるかもしれないので、ご注意を

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【SS】業火に手向けた

五月二十五日の真夜中。

戦いの中で、氷霧が見たものは。その心は。

真夜中の一幕。

全てを呑み込むような炎と、それを凌駕するほどの冷気。
それは、氷義にとって決して忘れることのできない光景だ。
炎の中では佇む女性。熱風に煽られ踊る黒髪。己を見つめてくる瞳は、背後で燃え上がる炎よりも鮮やかな深紅だった。
音もなく、彼女が右手に持った日本刀を振るう。それだけで焼けつくようだった熱気は霧散し、周囲を凍えるほどの冷気が支配する。同時に上がっていた炎は瞬時凍りつき、砕け散った。
ああ、もう大丈夫だと思った矢先、不意に彼女が微笑んだ。その口の端に、流れ落ちる一筋の赤い雫。
見れば彼女の漆黒の着物は、しとどに濡れていた。ぽたりと裾から滴るその色もやはり赤で。
手を伸ばそうとすると、急に彼女の姿が遠退いた。否、自分が離れているのだ。
一度は消えた筈の炎が再び燃え上がる。遠退く中で、傾いでいく彼女の姿。
一際強く、炎が燃える。炎に呑まれながら、それでも彼女はーー笑っていた。

『だから嫌いなんですよーー赤い瞳の女性は』

頭の中に響いた自分の声で、俺は跳ね起きた。荒くなった自分の呼吸がやけに大きく辺りに響いた。
どうやらまた、寝ている間にいつの間にか床に倒れていたらしい。
「……夢」
掠れた声で呟き、ゆっくりと上体を起こす。途端に襲った頭痛と目眩に、一度目を閉じてやり過ごした。瞼の裏に、先程まで見ていた赤い光景が蘇りかけるが、意識しいて思考の外へと追い出す。
寝る前に傍に置いた筈の刀を手探りで引き寄せ抱えると、少しだけ落ち着くような気がした。
頭は重く、普段と変わらない服装であるはずなのにやけに肌寒く感じた。窓から見える景色はまだ暗い。夜明けまで、もうしばらくの時間がかかりそうだと思った。
「参りましたね……」
時を追うごとに強くなっていく頭痛に、俺は壁際に座り直して天井を見上げた。
激しい試合の後はいつもこうだ。差はあるにせよ、決まって深夜に体調を崩す。そして、決まったように、あの熱く、凍てつくような夢を見るのだ。
 いや、いつもならあの夢はもっと抽象的だったはずだ。それが今回はやけに鮮やかで、そして記憶に忠実だった。
試合後治療してもらった傷は痛みこそ若干残っているが、それ以外は特に問題はない。治療してくれた人の手際が良かったこともあり、頭痛以外の体調はそこまで酷く無さそうだ。
と、いうことは。やはり悪夢の原因はあれだろう。
「似すぎ、なんですよ……」
こちらを見据える赤い瞳、長い黒髪。そしてその身に纏う冷気まで。
かつて共に過ごし、そして最期は炎に呑まれた腹違いの姉を、今日の戦いは否応なしに思い起こさせた。始めからやりにくさは感じていたのだ。刃を交えるごとにそれは明確になり、それにより生まれた隙を見事に突かれた。
「くだらない……」
そんなことで隙を見せてしまった自分が、未だに己を捕らえて離さない、あの光景が。
影をまとった拳を受けた時に呼び起こされた光景は、まさに夢にみた通りのものだった。そして再び前を見据えた時には、俺の目の前にいるのは一体誰であるのかが、分からなくなっていた。
ただどうしようもない苛立ちを感じて、叩きつけるように力振るった。我に返ったのは試合が終わった後だった。
苛立ちのままに戦ってしまったことと、それにより傷ついた相手を見て……勝ちはしたが、終わった後は酷い気分だった。
「心配、なんて……」
目を閉じて、そっと刀にくくりつけている簪に触れる。指先に伝わるひやりと冷たい感覚に少しだけ頭痛が収まる気がした。
一度覚醒してしまった意識に眠気が来る様子はない。それに、今は再び眠ったとしても、おそらくあの悪夢をみることになるだけだろう。それならばと、俺は目を開ける。
こうしているよりもなにかしら体を動かしていたほうがマシだ。
休息を求める体を無視して、俺は刀を手に立ち上がる。机の上に置いてあった頭痛薬を無造作に掴むと、道場へ向かい、部屋を後にした。


長い黒髪の女性は嫌いだ。赤い瞳の女性は嫌いだ。
強いくせに危うげで、それでいで惹き付ける何かを持っている。
瞳に宿す色とは相反する冷気を纏い、かつてこの刀を振るった彼女が、眩しいと思っていた彼女が呆気なく消えてしまったように。
『私は認めない、こんな強さは間違いだ! 何にも、どんな歪んだものにも負けない強さを、私は探してやる!』
強さをと、そう望み叫んだはずの彼女が惑い、本来なら生き残れた筈の命を捨ててしまったように。
……こんなくだらない、自分の命のために。
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